こんにちは。柏の葉税理士事務所の徳田大輔です。
本稿では、千葉県税理士会の消費税改正案について整理します。
・税理士会とは
・千葉県税理士会の「令和7年度 税制改正に関する意見書」(抜粋)
・要望が叶ったらどうなるか(私見)
1) 税理士会とは
税理士会は税理士法によって定められた特別法人で、全国に15の税理士会が組織されています。基本的に北海道、東北、近畿といった国税庁の管轄区域ごとの単位ですが、東京国税局管内は、東京税理士会(東京都)、東京地方税理士会(神奈川県、山梨県)、千葉県税理士会の3組織が存在します。税理士の数が多く、分けるのが合理的なのでしょう。私は千葉県在住なので、「千葉県税理士会」に所属しています。
日本の税理士は漏れなくいずれかの税理士会に所属し、税理士業務の改善進歩のための活動を行っています。その活動のひとつに、官公署への建議があります。税務の専門家として、税法について意見する権利が与えられている訳です。
各税理士会から提出された意見書は、全国組織である日本税理士会連合会が集約して「建議書」にまとめられる運びとなります。
2) 千葉県税理士会の「令和7年度 税制改正に関する意見書」(抜粋)
令和6年3月付で、千葉県税理士会より「令和7年度 税制改正に関する意見書」が公表されました。繁忙期のさなか活動された税理士の先輩方には、頭が下がります。
以下、意見書の消費税法に関する部分を抜粋してわかりやすく整理します。詳細については、私か千葉県税理士会にお問い合わせください(ホームページで公開されていれば良かったのですが、見当たりませんね。性質上、部外秘ではないハズです)。
①インボイス制度の廃止も視野に入れた抜本的な見直し
「売上に係る消費税は納めねばならない。ただし支払に係る消費税を引いてよい」というのが消費税の原則です。2023年10月に始まったインボイス制度は「支払相手が登録事業者(納税する事業者)でなければ引けない」という追加ルールです(従来は、支払相手の納税の有無に関わらず、引くことが認められていました)。
制度が始まって以来、消費税申告に際して、支払相手の登録の有無を逐一確認しなくてはならず、またインボイス(適格請求書)の受け渡しが難しい取引(電車、自動販売機、古物商など)に関する例外規定などもあり、事務作業が非常に煩雑になっています。登録した個人事業者が意に反して住所や本名を知られてしまうという弊害もあります。
意見書では、従来の計算方法を認めるよう、要望しています。
②免税点制度の廃止と新制度の創設
消費税法は、前々年度の課税売上高が1千万以下の小規模事業者は(インボイス登録していない限り)、消費税を納税しなくてよい制度となっています(俗に免税点制度と呼ばれています)。
しかし、固定資産売却などの臨時収入によって、実態は小規模事業者であるにも関わらず納税義務が発生したり、逆に実態は小規模でないにもかかわらず制度を駆使して(新しく法人を設立するなどして)納税義務を逃れる事案が多く発生しています。さらに、課税庁が納税義務逃れの対応として度重なる改正を行ったため、納税義務判定が過度に複雑になってしまっています。
意見書では、現行の免税点制度を廃止して全事業者を納税義務者にした上で、その課税期間の課税売上高が一定額以下の小規模事業者に対しては負担調整措置を講じて対処することを要望しています。
③複数税率の廃止
2019年10月から複数税率(軽減税率)が導入されましたが、税率の分け方に合理性がない(市販の医薬品や水道光熱費は10%、健康維持サプリメントや新聞は8%であるなど)、高所得者ほど恩恵額が大きく低所得者への負担軽減効果が薄い、事務負担が大きいといった問題を含んでいます。
意見書では、単一税率にするよう、要望しています。
④非課税取引の範囲縮小
消費税法では、「社会政策的配慮」として、医療、介護、助産、教育、住宅賃貸などの取引には消費税が課されないこととなっています。一見、消費者(国民)に優しい配慮に見えますが、これらのサービスを提供する事業者は、経費の支払額(税込金額)に応じて売上代金を設定しているため、消費者は実質的に(サービス提供事業者が負担することとなる)消費税相当額を支払っており、効果が薄まっているのが現状です。
意見書では、「社会政策的配慮」に基づく非課税取引の範囲を大幅に縮小して、これらを課税取引とするよう、要望しています。
⑤消費税届出書の休日明け提出容認
国税に関する届出書は、通常、国税通則法の規定により、提出期限が日曜祝日に該当する場合、その翌日を期限とみなすこととなっていますが、課税事業者選択届出書、課税期間選択届出書、簡易課税選択届出書など一部の届出書はその対象となっていません。いずれも消費税の納税時期や計算方法に大きく影響するものです。
意見書では、納税者保護、実務的配慮、行政事務の観点から、これらについても他の届出書と同様に、休日明けの提出を可能とするよう、要望しています。
⑥仕入税額控除「一括比例配分方式」2年縛りルールの廃止
売上規模5億円超の大きな企業や、非課税売上を多く扱う「課税売上割合95%未満」の事業者は、「支払に係る消費税額」について、「個別対応方式」か「一括比例配分方式」のいずれか有利な方を選ぶことができますが、後者については、一度適用すると2年間は変更できないこととなっています(俗に「2年縛りルール」と呼びます)。
「個別対応方式」とは、支払った一つ一つの経費について、「これは課税売上のための支払」、「これは非課税売上のための支払」と区分して集計する方法で、手間暇がかかります。これに対し「一括比例配分方式」は支払額の合計額と課税売上割合(全取引に占める課税取引の割合)をもって計算するので、比較的簡便です。
手間暇をかけられる事業者/課税期間は有利な方を選択すれば良いですし、手間暇をかけられない事業者/課税期間は否応なく簡便な方法を取るまでですから、「2年縛り」とする必要性がありません。
意見書では、「一括比例配分方式」の2年縛りルール廃止を要望しています。
3) 要望が叶ったらどうなるか(私見)
いいですね、千葉県税理士会の意見書。大賛成です。
ご存じのとおり、法人税や所得税は、売上から経費を控除した利益(所得)に税率を乗じて納付額を計算します。非常にシンプルな話です。
消費税も、「売上に係る消費税」から「支払に係る消費税」を控除した差額を納付するという、シンプルな仕組みに戻せばよいのです。
これらの要望が叶ったら、事務作業が大幅に軽減されることでしょう。全国の納税者の数を考えれば、日本社会の生産性向上に大いに寄与するに違いありません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。