こんにちは。柏の葉税理士事務所の徳田大輔です。
本稿では、消費税制度の「非課税取引」にまつわる問題点について取り上げます。
「国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、貸付および役務の提供」には消費税が課されますが、「社会政策的な配慮」から、次の取引については、消費税が課されないこととなっています。
健康保険法などに基づく医療サービス
介護保険法などに基づく介護サービス
医師、助産師による助産サービス
埋葬料、火葬料
身体障害者用物品の譲渡等
学校の授業料、入学金等
教科用図書の譲渡
住宅の貸付け
どのような問題があるのか、以下に記します。
1) 消費者の視点では
ここに挙げた非課税取引は、いずれも消費者にとって「生きるために必要」なものです。消費税が課されることで、医療・介護・教育サービスが受けにくくなったり、住宅の家賃が高くなったりしては、生命や生活が脅かされません。
よって、これらの取引を非課税にすることには、一定の合理性があるように感じます。
2) 事業者の視点では
しかし、これらの非課税取引をなりわいとする事業者にとっては、どうでしょうか? 具体的にイメージしやすいよう、ここでは医療・介護に焦点を絞ってみます。
医療・介護事業者が利用者へサービスを提供するためには、事務所を借り、水道光熱費を払い、医薬品や衛生用品を仕入れなければなりません。これらの支払いには、消費税が課されています。
そこで、どうなるか。
価格決定権を持つ事業者であれば、料金を吊り上げて、サービス利用者から消費税相当額を受け取ります。すなわち、サービス利用者は実質的に消費税を納めていることとなり、非課税による負担軽減効果はかなり薄れていることになります。
より深刻なのは、「保険点数」などの制約により価格決定権を持たない事業者です。彼らは自己の消費税負担を価格に転嫁できませんから、泣く泣く自分で負担を受け入れることとなります。よって、事務所を安くて不便なところに借りたり、エアコン代を節約したり、低質な衛生用品を選んだり、従業員への福利厚生を諦めたり、人件費を抑えたりせざるを得ないのです。これでは優秀な人材を集め、維持することは難しくなります。
そして、これは非課税取引を主業務とする事業者のみならず、全ての消費税納税義務者に関わることですが、日常の経理・会計業務が煩雑となるため、社会全体で大きなコストを負担しているのが現状なのです。
3) どう改正すべきか
税理士で構成される日本税理士会連合会および日本税理士政治連盟では、税制改正に関する建議および要望を行っており、その「重要項目」として、「社会政策的な配慮に基づく」非課税取引を課税取引とすることを挙げています。私も、日常業務において実感する消費税制度の不合理さから、この案に全面的に賛成いたします。
本稿では、平易な文章を優先するため、あえて詳細な説明を省いています。法令や各団体の正確な主張は、各機関のウェブサイト等をご参照いただきますよう、お願いいたします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【参考文献】
日本税理士連合会「令和6年度税制改正に関する建議書」(令和5年6月22日)
日本税理士政治連盟「令和6年度税制改正に関する要望」(令和5年6月)
国税庁「消費税のあらまし」(令和5年版)
名古屋青年税理士連盟研究部「消費税再考~非課税取引を中心として~」(平成29年度)