こんにちは。柏の葉税理士事務所の徳田大輔です。
本稿では、次の本を題材に、社長(以下、「経営者」と同義)の仕事について考えてみます。
徳谷智史「経営中毒 社長はつらい、だから楽しい」(PHP研究所、2024年)
1) 本の概要
著者はエッグフォワード株式会社の社長。「個人・組織に関するコンサルティングやコーチングなどのサービス」やベンチャーキャピタルをされている方です。ネット情報では1982年生まれとのこと。40歳過ぎでこのような本を書けるとは、さぞかし濃密な仕事人生を送られているのでしょう。
本書は、著者自身の経験や顧客の姿から、社長に次から次へと降りかかるカネ、ヒト、組織の問題を紹介し、それらがいかに構造的に発生しているかを解き明かすものです。
これから社長になる人にとっては「社長を疑似体験できる本」であり、すでに社長である人にとっては「自分の立ち位置を確認したり、励まされたり、慰められたりする本」となり、社長でない人にとっては「自社の社長の想いを想像できる本」かも知れません。
2) 私が注目した箇所
まず全体的に、とても納得感のある論理でした。十分に準備したはずの資金が足りなくなる話も、経営メンバーが1年前後で辞めていく話も、実際に私が見聞きしたことと見事に重なります。著者が経営にまつわる事象を言語化することに、非常に優れていることがわかります。
私にとって興味深かったのは、「第4章 最初に考えたプロダクトはなぜうまくいかないのか」の中の「お客様にどのようなビジネスモデルで価値を提供していくかをまず決める。それを基準にして、『こうした価値が得られるなら、いくらぐらいは払ってもいい』と納得してもらえる価格を設定していく。この順番が理想です」という一節でした。
税理士業界には、統一した価格表こそありませんが(2002年までは税理士会による報酬規定が基準になっていました)、相場感というものは存在します。もしかしたら、お客様(税務顧問先)より税理士自身の方が強く意識しているかも知れません。「作業ボリュームがこれくらいだから、これくらいの値付けが妥当かな」、「あまり高く請求して、関係性が悪くなったり、顧問契約を解除されたりしたら嫌だな」と考えがちです。
ついつい「御社の税務・会計についてのお悩みは何でもご相談ください」というスタンスになりがちな税理士稼業ですが、本来は「私の提供するこのサービスによって、あなたはこれだけのメリットを得られます。だからこれだけの報酬をいただきます」と説明できないと再認識しました。
3) 税理士の仕事との関係を考える
著者は、社長が「本音で誰かに相談することが構造的に難しい」と指摘しつつ、それでも「フラットな目を持つ第三者と話すことには大きな意味」があり、「誰かと対話すれば(中略)客観的な視点を取り戻せたり、心の奥底で思っていたことに気づけたり」すると説きます。
税理士は、会社の経営を真っ先に数字で見ることができる仕事です。ぜひ社長の「壁打ち役」に名乗り出たいものです。
単に会社の過去の出来事を見て決算書を作るだけでなく、会社の未来について社長と話し合い、社長のミッションやビジョンを言語化したり社員さんと共有したりするお手伝いができるよう、目下、コーチングの勉強を始めています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。